知り合いに、週の半分は農業に従事している編集者がいます。その彼が一緒に食事をしていたとき、「あと何度、自分の田んぼで稲刈りができるのだろう」と僕に語ったことがあります。人生は楽しむにはあまりに短いと聞こえました。確かにそうかも知れません。しかし、主体的に自らの人生に関われる人はそれだけで幸せではないかと考えます。「贅沢な悩みだよ」と言いたかったのですが、無粋だと思い箸を口に運びました。真っ白に炊き上がった新米は、夕日に照らされたハサガケの木々(注:刈り取った稲を干すための横木を掛ける道端の木)が並ぶ光景を思い出させてくれ、文句なく美味いものでした。
秋深まる田んぼから街に帰ってくると、金木犀の花が迎えてくれます。初夏のクチナシと同様、小生の好きな香木です。クチナシは茶枯れてしまうのですが、金木犀は色褪せぬまま散ります。その上一つ一つの花が小さいので樹下をオレンジに染め上げます。桜吹雪が作る緋毛氈ほどの豪快さはありませんが、その花言葉「あなたは高潔です」に違わず、上質な絨毯を道に敷き詰めてくれます。
この金木犀に少し遅れた時期に銀木犀が開花するらしいのですが、残念ながら未だこれが銀木犀だと確認して鑑賞したことがありません。花弁の色は白く甘い香りも金木犀よりは弱いそうですから、その花言葉「初恋」も納得です。
えっ、僕の初恋ですか?
…三十光年の彼方を旅しているはずです。